外張り断熱リフォームは家全体を断熱材で包み込む工法で、高い断熱性能による省エネ効果や快適性向上が期待できる点がメリットです。しかしリフォームに伴い工事費用や工期が増える、外壁が厚くなって敷地や隣家に影響が出るなどのデメリットもあります。
本記事では外張り断熱リフォームの主要なデメリットをわかりやすく解説し、各課題に対する対策も紹介します。
目次
外張り断熱リフォームのデメリットと対策
外張り断熱リフォームでは、家の外側に断熱材を施工するため施工範囲が広くなり、工事費用が高額になりやすいのが大きなデメリットです。大がかりな工事となるため材料費や施工費が膨らみ、一般的に内張り断熱よりも10~20%程度コストが上昇するといわれています。また、外壁を剥がして作業する場合には足場設置などの付帯工事も必要になるため、費用負担はさらに大きくなります。
対策としては、事前に複数の業者から見積もりを取得し比較検討することが有効です。近年は高断熱リフォーム支援の補助金・助成金制度も整備されているため、対象になる断熱材や工法を選べば国や自治体の補助金を活用して費用を抑えることができます。
例えば「住宅省エネ2025キャンペーン」では断熱改修が補助対象となっており、条件を満たせば数万円から十数万円の補助を受けることも可能です。
工事費用が高額になる
外張り断熱は住宅の外周すべてに断熱材を施工する工法のため、使用する材料量が多く施工工程も増えます。その結果、リフォーム全体のコストは内張り断熱に比べて高くなりがちです。実際の相場では多くの場合、内張り断熱より10~20%前後高くなると言われており、規模や使用材料によっては数百万円単位になることもあります。施工業者への手間賃も増えるため、予算が十分でないと工事が難航する場合があります。
費用の対策としては、前述の補助金を活用するのが基本です。それに加え、断熱材や外装材を選ぶ際にコストパフォーマンスを考慮するのも重要です。例えば、断熱材は断熱性の高いものを薄く施工できるプラスチック系断熱材(ウレタンフォームなど)が主流ですが、住宅性能を保ちつつも比較的安価な繊維系断熱材(グラスウールなど)での施工も検討できます。
また、リフォーム範囲を絞り込めるなら、家全体ではなく寒さ・暑さの影響が大きい屋根・外壁の一部のみ外張り断熱を行い、他は内張り断熱と組み合わせるといった工法も費用対策として考えられます。
工事期間が長期化しやすい
外張り断熱リフォームは外壁の全面解体・施工となるため工事期間が長くなりやすく、住環境への負担が大きい点もデメリットです。足場の組み立て、既存外壁の解体、断熱材の貼り付け、外壁再施工といった工程が必要であり、一般的なリフォームよりも工期が延びる傾向があります。工事中は騒音や埃が発生しやすく、外気の侵入が一時的に増えて室内温度が下がることもあるため、冬場の作業では暖房費が増加したり、住みながらの生活にストレスがかかる場合があります。
対策としては、工事時期や工程の調整が大切です。春や秋など過ごしやすい季節に施工期間を設定すれば、極端に寒い・暑い時期に外気の影響を受けるリスクを減らせます。また、施工前に近隣住民へ説明し工事スケジュールを共有することで、トラブルを未然に防げます。工事期間中は可能なら仮住まいに移るなどの検討や、業者と相談して作業スケジュールを短縮する工夫(プレカット材の使用や工程削減など)を行うとよいでしょう。
外壁の厚み増加によるスペース制約
外張り断熱では既存外壁の外側に数十センチの断熱層が追加されるため、建物の外観(外壁ライン)が外側に出っ張ります。これにより敷地境界線との距離が近づき、小さな土地や隣家との間隔が狭い住宅では施工スペースが取れないケースがあります。特に都市部の住宅地や隣家に隙間がほとんどない住宅では、50~70cm程度の施工スペースが確保できないと外張り断熱が物理的に難しくなります。
加えて、外壁が分厚くなるため門扉や外構の移設が必要になったり、敷地ギリギリまで建てられている家では外壁に加工がしにくいといった問題も考えられます。
こうしたスペース不足の対策としては、リフォーム前に敷地条件をよく確認することが重要です。施工可能なスペースが限られる場合は外張り断熱ではなく、壁の内側に断熱材を充填する内張り断熱の工法を選択するのが現実的です。
また、外張り断熱をどうしても採用したい場合は、外壁ラインを大きく変えることなく断熱層を薄く抑えるプランや、敷地境界の外に多少スペースがあれば塀の一部を撤去して仮設通路を作るといった工夫もあります。
耐震性への影響
外張り断熱は構造体の外側に断熱材と外壁を施工するため、内張り断熱と比べると建物の重心が外側に移動しがちです。建物重量の増加も相まって、地震時の揺れに対する建物への負荷が増える可能性があります。耐震性能にすぐに致命的な問題が起きるわけではありませんが、重心が外側に偏るほど大きな地震では建物が受ける振動が大きくなるため、構造的に不利になるリスクが指摘されています。特に築年数の古い住宅や元々耐震性能が低い木造住宅では、外張り断熱による重量増により耐震性への影響が懸念されます。
慎重な対策としては、断熱材や外装材を選ぶ際に軽量な素材を用いる方法があります。例えば硬質ウレタンやEPS(発泡スチロール系)のような軽量断熱材を使い、サイディングなどの金属系外壁で仕上げれば、重さの増加を抑えられます。
また、既存の耐震補強を併せて行う方法もあります。増改築時には耐震診断が推奨されるので、外張り断熱時に必要に応じて基礎補強や筋交いの追加、耐震パネルの設置などを同時に行うと、構造面の安全性を確保しやすくなります。
防火性能の低下と法的対応
外張り断熱で用いられるプラスチック系断熱材(硬質ウレタンフォームなど)は断熱性に優れる反面、燃えやすさが課題です。耐火性能が求められる外壁仕上げを内蔵している集合住宅や防火・準防火地域の戸建て住宅では、外張り断熱によって外壁の防火性能基準が変わる可能性があります。木造住宅の場合は建築基準法で外壁に不燃材料を用いることが義務付けられているため、外張り断熱で発泡系断熱材を使うと、外壁仕上げにも認定された防火材料を用いる必要があります。この対応を怠ると改正建築基準法違反に当たるため、大きなデメリットになります。
対策としては、材料選びと設計の段階で法的要件を満たす方法を検討することです。木造家屋でプラスチック系断熱材を使う場合は、不燃材である石膏ボードや金属製外壁材などをその外側に重ねて防火スペックを確保します。
また、住宅が防火地域にある場合は事前に役所で確認を取るか、建築士など専門家に事前相談すると安心です。場合によってはコストは上がりますが、外張り断熱の代わりにグラスウールやロックウールといった不燃材を使う設計に切り替えるのも一つの対策です。
既存外壁の構造による制限
外張り断熱リフォームには、既存外壁の構造によって適用できないケースがある点もデメリットです。特に外壁に通気層を設ける現代の通気外壁工法では、もともとの外壁+通気層の上にさらに断熱層を設けると「二重通気」となり、断熱効果が損なわれたり湿気による問題が生じたりする恐れがあります。そのため、外張り断熱は通気層がない壁(モルタル直張り外壁など)でないと基本的に施工できません。既存外壁に通気層がある住宅では、二重通気を避けるため外張り断熱を選択できない場合があるのです。
この問題への対策としては、住宅情報を事前に把握し、通気層の有無を確認することが重要です。リフォーム前の点検で通気外壁が判明した場合は、外張り断熱を諦めて内張り断熱に切り替えるか、既存外壁を解体して断熱+通気層再構築するなど別の方法を検討します。外壁の傷みが少ないケースでも、外張り断熱を選ぶ場合は専門業者に依頼して現地調査をしっかり行い、隠れた通気層の有無まで確認してもらうようにしましょう。
外張り断熱リフォームにかかる費用と補助金の活用
外張り断熱リフォームは高性能である反面、初期費用が高額になりやすい点がデメリットです。実際、外壁面すべてに断熱工事を行うため、外壁塗装や屋根断熱を含めると数百万円単位の工事になることも珍しくありません。こうした高額投資に対し、負担を軽減するためには補助金や助成金の活用が有効です。政府や自治体は省エネリフォーム支援を拡充しており、外断熱工事は補助対象になることが多いです。
例えば2022~2025年にかけて実施されている「住宅省エネ2025キャンペーン」では、外壁・屋根断熱改修を『必須工事』として最大数十万円の補助が受けられます。
外張り断熱の場合、補助金申請時には施工業者が登録済みであることや、リフォーム内容を証明する写真等が必要になります。見積りを取る際は補助金の申請条件を業者と確認し、必要書類の準備も念入りに行いましょう。
また、エコ住宅設備(高断熱窓や高効率設備)へのリフォームと組み合わせることで補助金額が加算される場合もあります。補助金を賢く利用して、外張り断熱リフォームのコストを抑える計画を立てることが大切です。
外張り断熱リフォームの費用相場
住宅の規模や断熱材種類、工事範囲によって費用は変わりますが、外張り断熱の場合、外壁と屋根の断熱改修を合わせて行うと一般的に数百万円以上になるケースが多いです。特に屋根断熱を同時に行うと工期や材料費が膨らむため、リフォーム全体の総額は200万円~400万円以上になることがあります。窓断熱の追加も検討する場合はさらに費用が増すため、予算には余裕を見ておく必要があります。
内張り断熱と比べると外張り断熱のほうが材料・施工ともに割高ですが、断熱効果が高い分、冷暖房費の削減などで長い目で見れば費用対効果は高いといえます。施工後の光熱費削減予想や快適性向上を計算し、将来的な経済的メリットと初期費用をしっかり比較検討してからリフォーム計画を進めましょう。
補助金・助成金を活用したコスト軽減
外張り断熱リフォームのコスト対策として政府・自治体の補助金を活用する方法があります。前述の住宅省エネ2025キャンペーンのように、断熱改修を行うことで最大数十万円の補助を受けられる制度があります。
例えば「先進的窓リノベ2025事業」や「子育てグリーン住宅支援事業」では、高性能断熱材の施工を行った外張り断熱リフォームも補助対象です。各補助金には申請期間や上限金額、対象製品基準がありますので、事前に確認して計画的に活用しましょう。
申請方法としては、工事契約前に各補助事業への予約が必要な場合が多く、施工業者も登録業者であることが条件です。リフォーム業者と連携して必要書類を準備し、写真撮影などの手続きを確実に行うことが成功のポイントです。補助金を活用すれば初期投資を大幅に抑えられるため、リフォーム全体の資金計画に大いに役立ちます。
外張り断熱リフォームと内張り断熱リフォームの違い
外張り断熱リフォームと内張り断熱リフォームは、工事する場所が外壁の外側か内側かで大きく異なります。外張り断熱は柱や梁をすっぽり断熱材で包むため冷暖房効率が高く、施工後の空調効果に大きな差があります。一方、内張り断熱は壁内部や天井裏に断熱材を充填するため、部屋ごとの内装工事が必要になります。以下で両工法の特徴を比較します。
外張り断熱リフォームの特徴
外張り断熱リフォームは構造体を外側から全体的に断熱するため、断熱の継ぎ目がなく高い気密性・断熱性を実現できます。温熱環境の安定で家全体が均一に暖冷房できる点が大きなメリットです。また、柱や梁も外気から保護されるため、結果的に構造体の長寿命化にもつながります。ただし前述のように費用や工期は大きくなる傾向があります。施工時には外壁ラインが厚くなるため、建物外周のスペースや防火性能に注意が必要です。
内張り断熱リフォームの特徴
内張り断熱リフォームは壁の内側(または天井、床下)に断熱材を充填する工法です。外壁を壊さずに施工できるので、敷地のスペースが狭い住宅でも施工しやすいメリットがあります。初期費用は外張りに比べて抑えやすいのも特徴です。
デメリットとしては、断熱性は外張りほど高くならず、施工仕上げの分断熱層に継ぎ目が多くなるため気密性に劣る点があります。
また、内装工事を伴うため、施工中は家の中の荷物の移動や養生、大がかりな施工となる点も考慮が必要です。
外張り断熱と内張り断熱の比較表
項目 | 外張り断熱リフォーム | 内張り断熱リフォーム |
---|---|---|
断熱性能 | 高い(建物を包み込むので熱損失が少ない) | 中程度(断熱層に継ぎ目ができやすい) |
気密性 | 高い(隙間が少なく気密性を確保しやすい) | 中程度(施工精度により気密性能が左右される) |
施工範囲 | 外壁・屋根全体 | 壁内部・天井裏・床下など |
初期費用 | 高額(材料・施工量が多いため) | 比較的安価(必要な箇所のみ施工可能) |
工事の影響 | 外装作業中心で室内の荷物移動など影響少 | 内装解体・再施工が必要で居住スペースに大きな影響 |
適用制限 | 敷地スペースや外壁構造に制限あり | 外壁構造の影響少なく狭小住宅でも施工しやすい |
両者の違いをまとめると、外張り断熱は高い断熱・気密性能と家全体の快適性を得やすい反面、コストや施工条件が厳しくなります。一方、内張り断熱は施工の自由度が高く初期コストを抑えやすいものの、断熱性や気密性で外張りに劣る部分があります。住宅ごとの状況に合わせ、利点と欠点を比較して最適な工法を選びましょう。
外張り断熱リフォームが向かない家の特徴
外張り断熱リフォームは万能ではなく、住宅の条件によっては適さない場合もあります。以下のような家には外張り断熱が向かない可能性があります。
敷地・スペースに制約がある住宅
外張り断熱では足場や施工スペースが必要となるため、敷地が狭い住宅は不向きです。特に都心部などで建物が隣接している場合、外壁から外側に断熱層を増やすだけのスペース(目安として50~70cm)が確保できないと工事ができません。車庫や門扉の位置を移動する必要が生じるケースもあるため、あらかじめ敷地条件をチェックしましょう。
既存外壁に通気層がある住宅
先述の通り、通気外壁工法(外壁と下地の間に空気層がある構造)の住宅では外張り断熱が難しいです。既存外壁の上に断熱材を貼ると空気層が二重になり、断熱性能が著しく低下するだけでなく、壁内結露や腐朽のリスクも高まります。このような構造の住宅では、外張り断熱ではなく内張り断熱を検討するのが適切です。施工前には業者に通気構造の有無を確認してもらいましょう。
防火地域など法規制が厳しい住宅
外壁が法令上の火災対策をクリアできない場合も注意が必要です。防火・準防火地域では不燃材や準耐火部材を外壁に使用する義務があり、外張り断熱で使う断熱材の選定や追加の外壁工事で対応しなければなりません。また、木造住宅で準耐火建材を用いない外張り断熱施工は認められていないため、これらの法規に該当する住宅ではプランが制約されます。建築確認が必要になるケースもあるので、事前に役所や専門家に確認することをお勧めします。
まとめ
外張り断熱リフォームは高い断熱性能で省エネや快適性向上につながる一方、コスト増やスペース制約、耐震・防火性能への影響など複数のデメリットも抱えています。工事前には費用や敷地条件、法規制をよく確認し、必要なら専門家に相談しましょう。
対策としては補助金制度の活用や通気構造を避ける工法選定、軽量素材の採用といった手段があります。これらのデメリットと対策を踏まえて準備すれば、外張り断熱リフォームの効果を最大限に活かしつつ、快適で安心な住まいを実現することができます。